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4. ひだまりのフライパン

last update Last Updated: 2025-10-23 13:01:00

 角を二つ曲がり、メインストリートから少し入った静かな通りで、マルタは立ち止まった。

「ここよ」

 マルタが指差した先で、シャーロットは息を呑んだ。

 二階建てのクリーム色の建物が朝の陽光の中、静かにたたずんでいたのだ。

 正面には可愛いアーチ型の大きな窓が三つ並んでいて、かつては町の人々で賑わっていたであろう温もりが、今も残っているような気がした。

 入口は重厚な|橡《とち》の木の扉で、色ガラスで小さな花模様の小窓があり、二階には白い木製の鎧戸がついた窓が四つ。一番右端の窓の下には小さなバルコニーがあり、そこだけ濃い緑の蔦が優雅に絡まっている。

 しっかりとした灰色の石造りの土台は、何十年もこの町の風雪に耐えてきた風格があった。

「前はパン屋だったんだけどね。店主が年で引退して、もう半年も空き家なの」

 マルタの声には、一抹の寂しさが混じる。

「素敵……」

 シャーロットは、まるで恋に落ちたように建物を見つめた。

 頭の中で、既に夢が形を成し始めている。窓際には、陽だまりのような温かいテーブル席を。入口には、手書きの可愛い看板を。二階の窓からは、ハーブの鉢植えを吊るして……。

「中も見る? 大家は私の古い友人でね、鍵を預かって……」

「ぜひ!」

 かぶせてくるようなシャーロットの即答に、マルタは優しく微笑んだ。

 重い木の扉を開けると、埃の舞う光の筋が現れた。でも、その埃っぽさも、シャーロットには素敵な物語の始まりの予感に思える。

 中は予想以上に広い。床は年季の入った木製で、歩くたびに優しい音を立てる。厨房も、かつてのパン屋の設備がしっかりと残っていて、少し手を加えれば十分使えそうだ。

「裏庭もあるのよ」

 マルタに案内されて裏口から出ると、小さいけれど陽当たりの良い庭が広がっていた。

 シャーロットは、そこに広がる可能性を見た。ローズマリー、タイム、バジル……新鮮なハーブを摘んで、すぐに料理に使える。小さなテーブルを置けば、天気の良い日は外でもお茶を楽しめる。

「どう? 気に入った?」

 マルタの問いに、シャーロットは振り返った。

「はい! ここに決めます!」

 その顔には、十数年ぶりに見せる、心からの笑顔が輝いている。

「あら、即決?」

「ええ。もう、ここしかないって感じがするんです。まるで、この建物が私を待っていてくれたみたいに」

 マルタは一瞬驚いた顔をした後、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「そう、それなら良かった。大家のトーマスも喜ぶわ。彼、この建物を大切に使ってくれる人を探してたから」

 その日のうちに、とんとん拍子で話は進んだ。大家のトーマスは、人の良い老紳士で、シャーロットの熱意をいたく喜んでくれた。

「若い人がこの町で夢を叶えようとしてくれるなんて、嬉しい限りじゃなぁ」

 思っていたより遥かに安い家賃に驚くシャーロットに、トーマスは優しく言った。

「町に活気が戻るなら、それが一番の家賃じゃよ」

 宿に戻ったシャーロットは、ベッドに寝転がって天井を見上げる。

 木目の美しい天井。王都の豪華な屋敷とは違う、素朴だけれど温かみのある部屋――――。

「明日から、頑張らなくっちゃ……」

 やることは山ほどある。掃除、修繕、家具の調達、食器に調理器具の準備、メニューの考案……でも、そんな大変なことにワクワクしてしまうのだった。

 十数年間眠っていた何かが、ゆっくりと目覚め始めているような感覚。体の奥から、生きる力が湧き上がってくる。

「お店の名前は何にしようかしら……」

 シャーロットは、子供のようにウキウキしながら考える。

「『金のたまご亭』……いえ、ちょっと大げさね。『幸せの黄色いスプーン』……可愛いけど、長すぎるわ」

 ごろんと寝返りを打ち、窓の外を見る。

 傾いてきた太陽が町を優しいオレンジ色に染めている。まるで、大きな|日溜《ひだま》りに包まれているような、温かい光景。

「……そうだわ」

 シャーロットの顔が、ぱっと輝いた。

「この町の温かさ、この光……『ひだまり』……そう、カフェ『ひだまりのフライパン』!」

 声に出してみると、しっくりくる。温かくて、親しみやすくて、ちょっとユーモラスで。まさに、自分が作りたい店のイメージそのもの。

「うん、いい名前だわ!」

 シャーロットは幸せそうに微笑んだ。

 明日から、本当の意味での新しい人生が始まる。誰のためでもない、自分のための人生が。そして、この町の人々に、美味しい料理と温かい時間を提供できる、【ひだまり】のような場所を作るのだ。

「どんなメニューにしようかしら……。ハンバーグ、パスタ? あの可愛いお店に似合うのは……オムライス? オムライスの黄色は『ひだまりのフライパン』っぽいかも!? ふふっ。そしたらインテリアは……」

 アイディアがどんどんあふれ出してきて止まらない。

 窓の外では、ローゼンブルクの穏やかな夜が更けていく。どこかで|梟《ふくろう》の鳴く声が、まるで祝福の歌のように響いている。

「うーん、なんて幸せなのかしら! 明日が待ち遠しいわ!!」

 満天の星々の下、シャーロットは希望に満ちた幸せな気持ちで目を閉じる。

 夢の中でもう、『ひだまりのフライパン』には、たくさんのお客様の笑顔が溢れていた。

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  • 追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~   2. 影の功労者

    |辺境《へんきょう》への道のりは長い。揺れる馬車の中で、シャーロットは過去を思い返していた。 前世の記憶が蘇ったのは八歳の時。高熱にうなされ、生死の境を彷徨った末に思い出したのは、平凡なOLとしての人生と、『聖女と五つの恋』というゲームの内容だった。(まさか自分が悪役令嬢に転生してるなんて……しかも、最後は処刑される運命だなんて) 最初は絶望した。だが、シャーロットには武器があった。前世の知識――特に、基本的な衛生観念と科学の知識だ。 王都の不衛生な環境を見て、彼女は決意した。解決策を知っている以上人々の役に立とうと。 しかし、シャーロットは決して表に出ないように気を配る。「古い書庫で見つけた文献に書いてあった」と嘘をつき、手柄は全て他人に譲った。(だって、目立ったら悪役令嬢として目をつけられるもの。地味に、目立たず、でも確実に) シャーロットの最大の功績は、やはり抗生物質の開発だった。 思い出すだけで、背筋が寒くなる。 十五歳の冬、王都で|猩紅熱《しょうこうねつ》が流行した。子供たちが次々と倒れ、既存の薬では太刀打ちできない。シャーロットは決意した。前世の知識にあったペニシリンを作ると。 問題は材料だった。青カビ――正確にはペニシリウム属の特定の菌株が必要だが、どれが正しいものか、見た目だけでは判断できない。 シャーロットは公爵家の地下室を改造し、秘密の実験室を作る。そして、ありとあらゆる青カビを集めては、培養と抽出を繰り返した。 夜中、皆が寝静まった後。シャーロットは一人、地下室に降りる。|蝋燭《ろうそく》の明かりだけを頼りに、危険な実験を続けた。 何度も失敗した。カビの胞子を吸い込んで倒れそうになったことも、抽出液で手を荒らしたことも数知れない。それでも諦めなかった。 そして、ついに――――。「できた……」 震える手で持ち上げた小瓶の中には、透明な液体が入っていた。動物実験で効果を確認し、ごく少量を自分でも試した。前世の記憶通りの効果だった。

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